石田先生、天使になる⁉︎
「か、川村くん、なんか光沢ができて天津飯がリアルになっているよ」
「せ、先生も、ぬめりがエロティックです」
吐き出された僕たちは、互いに慰め合う。サッちゃんにいたっては「ゴボウなのに」を繰り返していた。
「ああ、楽しかった‼︎」
突然、半蔵が大きな声を出す。
「僕がここに残れば、それで済むことだから。地球は元どおりにしてもらうよ。それだけの話」
「なに言ってるんだ、半蔵」
「もう飽きたしさ、犬の生活に。先生の腕枕には首を締め付けられるし、いびきはうるさいし、僕の写真ばっかり撮るし、いい加減、これで清々するよ」
1歩、また1歩と僕たちから遠ざかっていく、半蔵。
「半蔵、うそつくなよ。天国に行けなくなるぞ?」
「第1‼︎その半蔵って名前なんなの?黒パグにつける名前かなー?呼ばれるたびに返事しないといけないとかさ、もううんざりなんだ‼︎」
「半、蔵__」
「じゃ、そういうことだから‼︎さっさと帰って‼︎」
振り向きもしないで、行ってしまう半蔵。でもこれはこれで、本来の在るべき形なのか?これで地球が平和を取り戻したのなら、それで万々歳かもしれない。
傍の先生を気遣うと、ずっと半蔵のお尻を見つめている。
その向こうの、全身タイツのゴボウと目を合わせ、僕たちも、本来の在るべき形へと戻ることにした。
先生を間に挟み、かつての仲間に背を向ける。
もう、2度と会うこともない癒し。
半蔵こそ、満場一致のゆるキャラだったのかもしれない。
最後にもう一度、抱きたかったな。
なんて思うのは、先生からしたら罰当たりだろうか?
ここにきて年相応に老け込んだ先生もやはり、地球の無事が最優先なのだろう。
「先生、天国に帰りましょう」
これまでで1番の優しい声掛けに、先生は顔を上げた。
今にも泣きそうな顔をしている。
それもそうだろう。先生が1番、半蔵のことを可愛がっていたからだ。だから深く頷いてみたが、僕はどうやら勘違いをしていたようだ。
泣きそうなのは、僕に、いや、地球に対してだった。
勢いよく振り返った先生は叫んだんだ。
どこまでも聞こえるくらい大きな声で。