復讐劇は苦い恋の味
「ただ単に直接お礼を言いたくて、声を掛けてくれただけだよ。それにあの人、明日には退院するって言っていたし」

けれど朋子はそう思わないようで、席を立ち空いている私の隣に腰かけた。

「だってさっきあの人、なにか言いたそうにしていたじゃない。もしかしたらお礼に美空を食事に誘おうとしていたのかも」

「……ちょっと朋子、妄想が過ぎるんじゃない?」

箸を休め呆れ顔で彼女を見るも、朋子は注意を促した。

「いいや、あの顔は絶対美空を誘おうとしていたね! あんた、気をつけなさいよ。午後はよく入退院窓口に回されているんでしょ? そこで明日、会計の際に誘われちゃうかも」

もう、そんなわけないのに……。

けれど否定し続ける限り、朋子の暴走は止まらなそうだ。

再び小さな溜息を零し、彼女と向き合った。

「わかった、気をつけるよ。だから朋子、早く注文してきなよ。本当に食べる時間なくなっちゃうよ」

そう言うとやっと朋子は安心し、「わかってくれればいいのよ」と言うと、上機嫌で注文しに行った。
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