復讐劇は苦い恋の味
眉尻を下げ切なげに瞳を揺らす君嶋くんに、思わず聞いてしまいそうになった。

「それは私のことですか?」って。

平気で傷つけてしまった相手は、クラスメイトで太っていて目立たない子だった?

聞きたいという好奇心と、聞いてしまったらどうなるんだろうという不安が入り交じる。


だって君嶋くんは二回も会っているのに、私だって気づいていないんだよ? それに彼と一緒に過ごしたのは一年未満。私よりもっと酷いことをした相手がいるのかもしれない。

私のことなんて忘れているかもしれない。

私はこんなにも覚えているのに、君嶋くんの記憶の中から今も私は消されているなんて嫌。

打ち明けるならしっかり思い出してからがいい。……当時、私にしたことを思い出してほしい。


そう思っているくせに、後悔している彼の姿を前に、もしかしたら彼も苦しんでいたのかもしれない……なんて心のどこかで感じる自分もいる。


「大きくなればなるほど、俺自身を見てくれる人などいなくなっていきました。父親が亡くなってからは特に。……会社の利益になるようなお見合いも何度かしてきましたが、形だけの交際で正直辛かったんです。デートは完璧を求められていましたしね」
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