復讐劇は苦い恋の味
クスリと笑う彼に、居たたまれない気持ちになる。……でも、普段からこういったリーズナブルなお店に通っているのは真実だ。

「あのっ……! デートでこういったお店を利用するのは、決して珍しいことじゃないと思いますよ?」

「えっ?」

君嶋くんが今まで、どんな女性と交際してきたのか知らないけど、こういった場所で食事を楽しむカップルは大勢いるはず。それに……。


「私は一般人です。……それに叔母から聞いていると思いますが、生活は決して楽ではありませんでした。そんな私が、イタリアンレストランで食事をしたことがあると思いますか? 正直、今日連れて行かれても味も分からず、緊張しっぱなしだったと思います」


自分の想いを伝えると、君嶋くんは申し訳なさそうに眉根を寄せた。

「そう……ですよね。すみません、自分の価値観を押しつけていましたね。高級なレストランで食事をして喜ぶ女性ばかりではないですよね」


謝る彼に言い過ぎてしまったかも……と思ったものの、今夜は君嶋くんに復讐し、嫌われるために来たことを思い出す。
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