全て美味しく頂きます。
「なあ、……なあ、長谷川っ」
「え!ああ、ごめん。ボーッとして…」

 耳のそばで大きな声で呼ばれ、やっと気がついた私に、彼は少し迷った様子で尋ねてきた。

「ああいや、別にいいんだけど
……ならさ、長谷川。俺ん家、来る?」

「ええっ、い、いや。サスガにそれはちょっと、身のキケンを…」

 丁重にお断りしかけた時。

「新作のゲーム、買ったんだよな。
 インク飛ばして陣取りするやつ。確かオマエ、好きだって言ってたよなー」

「…行く」

 祥善寺が、にやっと笑った。
 
 うう…
 ゲームごときで男の家に上がり込むだなんて、私も随分と軽い女になったものだ。

 ま、相手は祥善寺だし、大丈夫か。
 一度はマチガイ起こしちゃってることだしね…って、それじゃあなお悪いのか?

 吉田君にもらったヌイグルミと同じで、杉原さんが嫌うから、こっそり処分しちゃったけれど、一年前までは独り暮らしの寂しい時を救ってくれていたゲーム。

 この誘惑には勝てない。

「かなり強いよ、私」
「はっ、どうだか。かなりブランクは長いと見た。俺は今でも現役だぞ」

 すっかり元気になった私は、その話題で盛り上がりつつ、彼の家へと向かっていた。
 
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