全て美味しく頂きます。
 丁度そんな時だった。
 あの人に、ばったり出会ってしまったのは。

「あれ___君たち」

「あ…」

 杉原……さん。
 今夜は残業してるんじゃ…

 直前まで、彼の隣にいた女の子が、さっと彼の背中に隠れた。
 
 やっぱり…こないだの出張のコだ。

 ガクガクと足が震える。不自然な態度を取っちゃいけないのに、言葉が何も出てこない。

 と、隣にいた祥善寺が、私を隠すように前に出た。


「お疲れ様です、副支店長。残業ですか」
「ああ、ちょっとね…彼女とは、来月の役員説明会の打ち合わせで」 

 しれっと言える彼が憎い。
 “へえ、そうですか、大変ですね”
 通りいっぺんの返事をする祥善寺の横で、何とか笑顔を取り繕うが、その顔はひきつってしまう。

「あれ、君…長谷川君?」

 と、
 杉原さんは、初めて存在に気づいたかのように、私の顔を覗きこんだ。

「あの…どうも」

 消え入りそうな返事を一つ、目を逸らすように頭を下げる。
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