全て美味しく頂きます。
「へえ、なんだ。君たち、もしかして付き合ってた?」

 からかうように冷たい言葉を投げつける彼。

「あ…の、私たちは別に…」

 “違います”

 酷いよ__
 悔しくて、たった一言が出てこない。
 と、その場で泣き出しそうになった私をぐいっと押し退けた祥善寺が、庇うように私と杉原さんの間に割り込んだ。

 照れくさそうに頭を掻きながら頬を赤らめてみせる。

「あ…はい。
 実はこないだの飲み会の時、すっかり意気投合しちゃいまして。参ったな、副支店長に見つかるなんて、な?長谷川さん」

「あ…う…」

 彼は、まだ震えっぱなしの私の肩を、少し強くぐいっと抱き寄せた。

「…そうなの?」
 
 杉原さんの低い声に、若干イラつきが混じると、後ろの彼女がぎゅっと彼のコートを掴んだ。

 私は、精一杯に前を睨むと、コクンと首だけで頷いた。


「へえ、何だか…意外だね。
まあいい、じゃ、また明日ね」

 彼は軽く手を振ると、彼女と連れだって暗闇の中に消えていった。
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