そんな君が好き。
なんで、あの男おんねん。
いやいや、こっち来いって合図してはるけど、お前とうちの関係、ストーカーと被害者やからな!
なんか状況的に、助けてやるみたいな雰囲気出してるけど、お前やってること犯罪やからな!
「それでさ。宮田ちゃんは何に悩んでいるの?」
足を伸ばして、矢澤は言った。
臭い。
ひどい臭いがする。
この人と恋愛するの無理だと思う。
だって、恋愛する上で香りってものすごく大事だ。
家に行って一緒に過ごす時間も多いのに、その度にこの足の臭いを嗅ぐのかと思うと、千年の恋もいっぺんに醒める。
出された料理と、共に香る足の臭いのハーモニー。
しんどい。
「どう?香りからして違うでしょ?」
「え……あ、あ。そうですね。香りすごーい」
どう答えていいのか分からず、再び視線を窓の外に向ける。
しかし、そこに沢村伊月の姿はなかった。
「なんか、窓の外にいる?」
「い、いえ。矢澤さんの髪型オシャレだなぁって。あはは」
「わかる?これギャツビー使って毎朝セットしてんだ。あ、ギャツビー知ってる?整髪料ね」
そんな全国的に有名商品説明するよりも、ビストロの意味を説明してくれよと思いつつ、志帆は運ばれてきた料理を口にする。
どうにか足を引っ込めてくれさえすればなんとか、耐えられそうだと思いながら「矢澤さんって足も長いんですね」と遠回りに言ってみる。
「え?気づいちゃった?足長いんだよね。モデルの女の子の友達にもよく言われるんだ」
御 託 は い い ひ っ こ め ろ。
「すごーい」
「足フェチなんだね。もっと、僕の足を感じていいよ」
「……」
違うに決まってるやろ。
そんな虚しい気持ちは通じることなく、早めに今日は引き上げようと思った時、店の中に黄色い声が上がった。
「沢村伊月じゃない?」
女性客が大量のバラの花束を抱えた、彼を指差しながら言う。
いやな予感がした。
今ならノストラダムスの大予言も凌ぐほどの予言をすることができる。
奴はこのデートの邪魔をしにきた。
問題はこの男との恋が上手くいかないことではない。
ストーカーが沢村伊月であるということが、会社仲間である矢澤にバレて、社内で大騒ぎになることが問題なのだ。
矢澤との今日のデートは上手く仕事のことで相談があっただけだと誤魔化すことができる。
だが、奴は出来ない。
何で、そんな大量のバラを買ってきたんだ。
「志帆さん、そんな男といるよりも、僕と一緒にいる方が幸せだということを、証明するよ。だから、結婚してください」
伊月は案の定、志帆の傍に膝まづいてバラの花束を差し出した。
「……」
「志帆さん……なんか、臭くない?」