そんな君が好き。
「何なん!?」
スマートフォンの懐中電灯ボタンを押して、志帆は相手に光を向けた。
「うわあっ!」
「これ以上つきまとったら、警察突き出すで!」
啖呵を切ったはいいものの、襲われたら一貫の終わりだと思っていると、その人物の顔がよく雑誌で見ている人物と似通っていることに気がついた。
「す、すみません……決して怪しいものではないのですが、少しでもお近づきになりたくて……」
「あ、あんた……まさか」
「あ、はい。沢村伊月ともうします。小説書いてるんですけど」
「は?」
状況が理解できない。
どうして、こうなった。
なんで、有名小説家の沢村伊月が自分をつけていたのだろうか。
「あの。僕、ずっとあなたを見ていました。最近のヒット作のヒロインは全部あなたをイメージしたものなんです。でもそろそろ見ているだけでは、限界で。もうこうなったら、恋人になるしかないと思っているんですけど、なかなか勇気が出なかったんです。でも、さっき志帆さんがお友達と僕の話をしているのを聞いて、僕と恋愛してるって気付いてくれてたんだと思ったら、僕と君は運命だったんじゃないかと改めて思いました。どうでしょう?あ、ちなみに相性占いでやったら大体が100%でしたよ。四柱推命でもよかったし、数秘術では番号の相性も良くて。ちなみに夜の相性も僕がテクニックでカバーするので、安心してください」
「……さようなら」
「ああ!待って!待って!志帆さん!」
慌てたように追いかけてきて、伊月は志帆の腕を掴む。
「離してや!」
「うわぁ!志帆さんの身体に触れてしまった。なんて柔らかいんだ!こんなマシュマロボディだったなんて、新作に活かさないと!」
「……」
会話がかみ合わない。
「ダメだ。やっと志帆さんとお話ができて、僕の下の息子が持たない……」
女性ファンが聞いたらがっかりするような台詞を仮にも好きな女の前で吐きだして、伊月は志帆に向き直った。
「なんやねん……」
「僕と、一緒に来ていただけませんか?」
「お断りや!」
伊月の下の息子を蹴り上げて、志帆はその場を去った。
ヒールだったから、きっと悶絶しているだろう。
引っ越しも考えないと、いけない。
そう思いながら、大通りに出てタクシーを捕まえた。