天使と悪魔の攻防戦(短編集)
「まあまあ、ハロウィンだし、一緒にお菓子食べよう」
「……ハロウィン、昨日終わったよ」
「まあまあ、疲れたときは甘いものだから」
そう言って桂志くんは、わたしの口にチョコチップクッキーを押し込む。
久しぶりに口にしたお菓子は、驚くほどに甘い。その甘さはすぐに胸や脳に伝わり、気分が落ち着いていく。
身体にどれだけ糖分が足りていなかったか、このとき初めて気がついた。
「な。疲れ、とれるだろ」
「とれるけどさあ」
「頭がすっきりするだろ」
「するけどさあ」
「程よい糖分は必要だからさ」
「うん、まあ、だよね」
「まあそんなに身体を引き締めたいなら、」
ここまで言って桂志くんは、クッキーの大袋を持ち、それで顔を隠しながら、……
「有酸素運動ならいつでも協力するから」と。
高音で清らかな天使の声で、天使らしからぬことを言い放ったのだった。
いや、むしろ袋に描かれたハロウィン仕様のキャラクターが言っているみたいだ。やめてくれ、そのキャラはそんなこと言わない……。
それでもわたしは、そんな恋人の誘惑に絆され、素直に頷くのだった。
わたしの中の天使と悪魔の攻防戦は、悪魔の圧勝だったみたいだ。
(了)