天使と悪魔の攻防戦(短編集)
驚く伊織さんの言葉を遮るように、わん、と聞き慣れた声がして、慌てて立ち上がる。
「ポチくん……!」
ポチくんはいつも通りという様子で、いつものように、庭の犬小屋に顔を突っ込んでいた。
「ポチくん、ごめんね、門を開けたままにしていてごめんね、放って台所に行ってごめんね、見つけてあげられなくてごめんね」
背後からぎゅううと抱きしめると、ポチくんは苦しそうにか細い声を上げたけれど。尻尾は元気に振っている。良かった、無事みたいだ。元気みたいだ。
しかし、異変が。
「しのぶさん、ちょっと離れて、顔をよく見せてください」
「え?」
伊織さんに言われた通りポチくんから離れ、その顔を見る、と。
「これは……」
「……」
絶句。
ポチくんは頭にオレンジカボチャの被り物をして、今朝まではなかった太い眉が。落書きされている。ちょっと目を離した隙に眉を描かれ、オレンジカボチャを被せられている……。
絶句したあと、一息置いて、笑い出す。
「シャンプー、しましょうか」
「ごめんねポチくん、今きれいにしてあげるからね」
自分の頭部がどうなっているか分からないポチくんは、不思議そうな顔で、もう一度わんと吠えた。