天使と悪魔の攻防戦(短編集)
そんなわたしの心中なんて察してくれるわけもない桂志くんは「食いたいなら食やぁいいじゃん」と半ば呆れた口調でこたつに入ってくる。
こいつ……。そもそも甘いものを極力我慢しているのはダイエットのためで、ダイエットを始めたのは桂志くんが「丸くなった」と言ったからで……。
桂志くんのためにダイエットをしているのに、桂志くんが甘いものをどんどん食べさせようとするとは、なんて男だ。
キッ、と桂志くんを睨んだけれど、彼は特に気にする様子もなく、足をこたつに入れたまま寝そべり、お菓子の山に手を伸ばす。
そしてクッキーが入った大袋を掴んで起き上がり、テーブルの上に広げた。よく見るキャラクターがハロウィンの仮装をした、可愛らしい、この時期だけの限定パッケージ。それに目もくれずに、桂志くんは早速クッキーを食べ始める。
ジト目でそれを見ていたら、すっと包みをこちらに差し出す。
どうやら物欲しそうな顔に見えたらしい。
「なんで里穂が最近食う量減らしてるのか分かんねえけどさ。好きなもの食って、部屋でのんびりして、ゆっくり寝て、ちゃんと疲れ取んねえと。こんなお菓子まみれの狭い部屋で、食いたいのに食えないお菓子と生活なんて、どんな苦行だよ」
確かにそうだと思う。けど……。
「……太った、から……」
控えめにぼそりと、呟くように言うと、桂志くんはあっけらかんとして、ごくごく普通に「うん、太らせたから」と。当たり前のことのように言った。
「は、はあ?」
「美味い店連れてったり、土産買ってきて与えたり。ちょっとずつ太らせたの、俺」
なんということだ。桂志くんが「丸くなった」と言うから、地味にこっそりダイエットを始めたというのに。太った原因は桂志くんだったなんて。
「なんてことしてくれてんの……!」
桂志くんのシャツとネクタイを掴んでぐわんぐわん振り回して抗議すると、桂志くんはやっぱりあっけらかんと「太らせたかったから」と言い放つ。