天使と悪魔の攻防戦(短編集)
「なんで!?」
「俺は抱き枕が好きだ」
「はあ?」
「抱き枕は身体にかかる負荷を分散させてくれるし、呼吸も楽にできる。精神面でもリラックス効果があって、ストレスを軽減させるという研究結果も出てる」
「は、はあ……」
「でも里穂の部屋には抱き枕がないし、ここに泊まるときは必然的に里穂が俺の抱き枕になる」
「そうね、いつも抱かれてる、っていうか絡まってる気がする……」
「でも抱き枕にしては柔らかさが足りないんだよ。なんかごつごつしてて、抱き心地は良くない」
「……」
「かと言って狭いワンルームに、でかい抱き枕を置いておくのも申し訳ない。ここに泊まる度抱き枕を持参するのも面倒。じゃあ里穂を太らせるしかないだろ」
「しかなくはないと思うけど……」
「だから無理してダイエットなんかしないで、里穂は里穂らしくいてくれ」
桂志くんの言い分は分かった。「丸くなった」発言はマイナスの意味ではなくプラスの意味で言ったということも。
予期せぬネタばらしに身体の力が抜け、掴んでいた桂志くんのシャツとネクタイを離す。
複雑な気分だ。
女の子としてはスタイルを良くしたい。でも桂志くんの恋人としては抱き心地良くありたい。「太らせたい」というのは、どのくらいのレベルが希望なのだろう。わたしもできる限りは桂志くんの希望に添いたいけれど、わたしにも許容範囲というものがあってだな……。
あれこれ考えていると、桂志くんがふっと笑って、鞄から何かを取り出し、それをわたしの頭に乗せる。
オレンジカボチャの帽子がついた、カチューシャだった。