少年Sの恋路の行方は
「鈴木さん、箱の中はどう?」
柔らかい声に振り向くと、先生が事務室から出てきたところだった。
私はカウンターから身を乗り出して箱の中を覗き込んでみる。
と、表層のしおりがごっそりとなくなっている。
あと一週間もすると冬休みに入るためか、最近は本を借りに来る生徒が多い。
貸出できる本の数がいつもの2倍だから、しおりの減り具合も2倍だ。
「半分くらいに減っています」
杉山先生に答えながら、適当に目に付いたしおりをつまみ上げると、それは端のよれた薄茶色のしおりだった。
柔らかく指先をくすぐる感触に素材は和紙だとあたりを付ける。
しおりの真ん中には『英語赤点、ガンバレ俺! 今月の新刊は当たりが多い』と筆ペンで書かれている。
それに小さく笑いをもらし、私は箱に戻した。
「それじゃあ、また頼むわね。道具はいつものところにあるから」
そう言って先生は奥の書庫へ姿を消した。
それを見送ってから、私はカウンターの奥を覗いた。
「今日はどれにしようかな。和紙は手触りが良いけれど、折れやすいし、濡れたら字がにじんじゃうなぁ。やっぱり時代は、金属製?」
独り言を呟きながらカウンターの奥を物色する。
そこには様々な種類の紙が無造作に放り込まれていたが、悩んだ末に私が取ったのは和紙だった。
先ほどの薄茶のしおりの優しい手触りが脳裏に残っていたのかもしれない。
手に優しいしおりは、本にも優しい。
「何を書こうかな」
筆ペンのフタを取ると、きゅぽんと間抜けな音がした。