海へ...
カオルは既に海底都市ルルイエへと向かった。

父なるダゴン、母なるハイドラ、大いなるクトゥルフを崇めるために。


あたしもカオルを追いかけるわ。

オナカの子供と一緒に……。



あたしは 海へと進んでいった。

真冬の海は 肌を刺すように冷たいけど

今のあたしには心地よかった。


待っててね カオル。

いま 行くから。



バケモノのような姿になったからって、それがなんだというのだろう。

すべてあたしたちが作り出した妄念に過ぎない。

人は、見かけや体型で差別されるものではない。


兄妹の間に生まれた子供にどれほどの罪業があるだろう。

すべてあたしたちが作り出した妄念に過ぎない。

人の生命に正しき生まれも間違った生まれもない。


邪神を崇める宗教がどうして悪と言い切れるだろう。

すべてあたしたちが作り出した妄念に過ぎない。

仏教にも素晴らしい教えがあった。

クトゥルフ神にも素晴らしい教えがあるはずよ。



そう、この世界はすべて妄念に覆われている。

あたしたちは気付かぬうちに、自分で作り出した妄念に支配され、

己の視界に闇を生じ、世界の正しき姿を、

素晴らしきこの世界を見ようとしない――。

でも、あたしたちがそれに気付き、

ホントウの世界を直視するなら、

真実が、あたしたちに語りかけてくる。



その証拠に、ほら――、

いままで、あたしが海だと思っていたものだって、

ホントウは、琵琶湖なのよ――。


澄み切った心で眺めたとき、

琵琶湖は初めて、あたしたちに

ホントウの姿を見せるのよ――。



 ***



リョーコは琵琶湖へと沈んでいった。

今でも琵琶湖では、大いなる神クトゥルフを崇める「深きものども」が、星辰正しき刻を待ち侘びながら、ひっそりと暮らしているという。


<終>


参考文献「東京都民のための全国観光ガイド」
http://www.google.co.jp/gwt/n?u=http%3A%2F%2Fguide.cagami.net%2Findex.shtml






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