愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。
聞けばやっぱり思った通り、彼女は重い風邪でダウンしてるというものだった。
熱も高いらしく、何度か吐いて大変な状態だったらしいのだけど、すでに病院から帰ってきたあとだった。
「もう平気ですよ。診てもらったから大丈夫です。梨央ならさっき寝たところです」
玄関の中に入ると目の前の幼馴染君は表情を変えず、当たり前のようにリビングへと入っていく。
そんな自然な後ろ姿を追いながら、やっぱり終始穏やかじゃない。
「あ、そうだ。汗もかなりかいていたので着替えもちゃんとしておきましたよ」
「は?」
「嘘です。冗談ですよ。さすがにそこまではしません。それはあなたの役割ですからね」
爽やかな笑みの裏で何となく挑発的、に見えたのは俺の気のせいなんだろうか?
俺は立ち止まり、それを右から左へ受け流すことができないまま無言の沈黙を向ける。
「お仕事大変なんですね。こんな時間までご苦労様です」
「……いや、それはあなたも同じでしょう?弁護士の仕事も楽ではないんじゃないですか?」
「まぁ、そうですね。でも僕の場合はまだまだ下っぱなのでその時の案件と場合によりますよ。色々と自由はきくので安心してください」