愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。

「まぁ、そう落ち込むなよ。もう終わったことだろ」

「そうだけど…」


やっぱり心は痛む。

包丁をまな板に置き、考え込んでしまう。

今回のことがトラウマになりそうで…怖い。

見えない理不尽な恐怖はきっとこの先生きてる限りないとはいいきれない。

こんな世の中だもん。
どんなに気をつけていたって回避できないこともあるんだよ。

……すると、そんな私を見かねてコウさんが優しいトーンで「梨央」と私の名前を呼んだ。


「手、止まってるぞ」

「あ……うん……」


どうしてか、私を見つめる視線はとても柔らかい。

見守るように直視され、複雑な表情で見返してしまう。


「本当、お前は素直でいいよ」

「……え?」

「泣いたり笑ったり怒ったり、表情が豊で羨ましい」

「それって誉めてます?」

「誉めてるよ」


コウさんの手がポンっと頭の上に乗った。

そのままワシャワシャと愛でるように頭を撫でてきた彼は優しい眼差しのまま、そっと自分の胸へと引き寄せた。


「見てて飽きない。子供の頃に飼ってた愛犬を思い出すよ」


………犬?

それってやっぱり誉めてるの?犬と一緒ってどうなのよ?と、ムムッと怪訝に思うのは普通の感情だよね?


「私は犬扱いですか」

「いや…、そんな単純なものじゃねーよ。もっとなついて俺の前で砕ければいい」


可笑しそうにワシャワシャと撫でてくる。

ちょっとって思うのに。言ってることは無茶苦茶なのに、どこか憎めない。コウさんの腕の中はやっぱり居心地がいい。
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