愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。

敦士さんは唯さんと結婚した時からすでに移動は考えていたみたいなんだけど、その間なかなか結論が出せずにいたらしい。

今回唯さんに子供が産まれる機会がチャンスだと思い、ようやく重い腰を上げたみたい。


「それってどうしてですか?」


純粋にそんな質問をすると敦士さんは飲みほしたグラスを置き、すぐにとても爽やかな表情をくれた。


「そりゃあ、大切なものが二つに増えるからでしょ」

「えっ」

「自分より守りたいものができたらもう無理だ。できればもう少し安全な場所に居たいって思うのは普通のことだからね」


そして敦士さんは続けてこうも言った。


「これからの俺の第一は家族を全力で守ることだからさ」と…。


それを聞いて私は思わず彼を真剣に見つめてしまった。

敦士さんの表情が今まで見たことのないぐらい、優しさと芯の強いたくましさに満ち溢れてる。


「ただでさえ刑事なんて恨みを買いやすい職業なのに、今俺達がいる場所はさらに上の領域、命の危険と隣り合わせの所だからね。
油断したら最後、いつナイフで刺されるかもしれないし、撃たれるかもしれない。最悪逆恨みされて家族にまで被害が及ぶことだって珍しいことではないからさ」


そこまで聞いて私は宗一郎さんとのことを思い出した。

確かに裏の世界に住んでいる人達と日々格闘していればいつ命を落としたっておかしくはない。

現にコウさんだってよく指や腕に何かしらの傷を持ちかえってくることも少なからずあるわけで、内心ハラハラしてるのは確かだもん。
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