愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。
車まで誘導した俺はアワアワする梨央を当たり前のように助手席に乗せた。
「あのっ、仕事は?」
「休みだ。言わなかったか?」
「き、聞いてませんよ!ていうか、来るなら来るって先に言ってもらわないと、心の準備が……」
なんの準備だよ。と思わず突っ込みを入れたくなったが、あまりの驚きを見せる梨央に俺も若干の苦笑いを浮かべる。
「一応さっきラインにも入れといたけどな」
「あ…、スミマセン。見てませんでした」
「しっかしなぁ、何なんだ。さっきからじろじろと視線を感じる気がする。それは俺の気のせいじゃねーよな?」
俺は動物園のパンダかよ。と、またしても突っ込みそうになったけれど、次の瞬間梨央の顔が複雑そうなものに変わり、俺は首を傾ける。
「そりゃあ騒ぎますよ。コウさんみたいな人が突然現れたりしたら。か、かっこいいですもん」
少し照れたような口ぶりだった。
けれど最後の語尾は少し拗ねたようなふて腐れた感じだったため、俺は不意をつかれ、興味深く梨央の様子を覗き込む。
「コウさんを見られるのはあまりいいものじゃないです…ね。なんだかそわそわします」
「それって、焼きもちなわけ?」
「…っ……」
途端顔を背けた梨央に俺は気分よく口の端を上げる。
自分で言って照れるなよ。そう思ったが、意地らしくて憎めない。そんな発言と態度を見せられたら悪い気にならないのは当然のことで。俺はポンポンと目の前の頭を撫でてやる。