愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。
その言葉を聞いて、俺の心は揺さぶられた。
どんな風に?
と、聞き返した俺に梨央はやっぱり思い返したようにクスリと笑った。
「意地悪で嫌味なおじさんから本当はいい人かもって思った瞬間ですね」
「なるほど」
鼻から息を吐くような笑いが漏れた。
そして妙に納得できた。
あの時のことは俺も不思議とよく覚えている。
梨央を初めて俺のテリトリーの中に入れた瞬間。
梨央との曖昧な境界線を壊したくて、強引にこっち側に引っ張りこんだ瞬間だ。
「あの時もらったケーキも美味しかったなぁ。涙が出るほど嬉しかったの」
「それはいいすぎだろ」
「ううん、本当に嬉しかったの。けどそんなコウさんが意外で驚いたのが本心で。……でもね、やっぱりそれ以上に感動したのが強かったなぁ」
その時の感情を懐かしむ梨央の表情に思わず引き込まれそうになる。
俺は次の花火に火をつけながら、そんな彼女の姿をじっと見定める。
「不思議ですよね?あの事件がなかったら私とコウさんはきっとこうして出会ってなかったと思うので」
しみじみと語り出した梨央がやり終えた花火をバケツに入れる。
「そもそも私とコウさんじゃ住む世界が違いますもんね。年齢だって一回りぐらい離れてるし、普通の生活を送っていたら絶対に接点なんてなかったんじゃないのかなって思います」