愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。
侵害だと言わんばかりに睨まれたけど、お返しにベっと舌を出し、前を向いた。
その時、ふと先ほど助けたおじ様を思い出した。
紳士で物腰も柔らかいあんな人が上司だったならばきっと仕事も円満にいくにちがいない。
「少しはさっきのおじ様のように愛想よく笑ってみてはどうですか?」
「は?」
「すごく感じがいい人だったんです。物腰も柔らかくて、笑顔も素敵で例えて言うならイケオジです。ね、弦さん」
「…え?ああ…」
「弦さんもそう思いませんでした?希に見る紳士でしたよね?」
「……」
私の問いかけに何故か弦さんは歯切れが悪く笑った。珍しく言葉に詰まった様子にあれ?と不思議に思ったけれど、
「アホくさ…」
コウさんの呆れた一言にその思いは中断された。そして不愉快だというように私の頭をクシャクシャとかき乱した。
「ちょっと…」
「このお人好しの甘ちゃんが」
「は?」
「あんまり人を見た目だけで判断しない方がいいぞ。その人の本質なんて一度見ただけじゃ分からないだろ。心の中はえらくひねくれてるかもしんねーし」
「そうですかね?それはコウさんが警戒し過ぎなんじゃ…」
「お前はもっと警戒しろ」
「もしかして焼きもちですか?」
「は、ちげーよ」