愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。

そう聞かれ、俺は一瞬沈黙を溜め込めこんだ。そして深く息を吸い込み煙を吐き出していく。

今日はやけに喉の奥が染みる、そう感じながら。


「なるに決まってんだろ」


自分でも意外なほど低い声が出た。

これでも必死に押さえて出したほうだ。敦士に言われて尚更実感した。ずっとやきもきしてた訳を。

彼女に対しての不安や焦り、愛しさがごちゃ混ぜになって身体中に押し寄せる。


…ただ、この時の俺には危機感というものがあまりなかった。

梨央に対しての信用も大きかったし、そもそもそんな簡単に二人がどうにかなるだなんて思ってもいなかったからだ。


「ま、とりあえずは少し様子見だな」

「そんな余裕かましてると後で後悔することになってもしらねーぞ。よーく考えてみろ、ただでさえお前は彼女にとって正義のヒーロー。悪党から救い出してくれた王子様だろ?
それを恋と勘違いして実際付き合ったらやっぱり違いました。
なんて言われたらどうする?はいそうですか、ってお前は簡単に手放せんの?」


「そうなったらその時また考えるまでだろ」


もちろん簡単に手放したりはしない。

ただ、後悔しないように彼女を縛り付けるのもどうかと思う。

ただでさえこの3年間自分の意思に反して彼女は自由を奪われ、無理矢理拘束されてきた。

その傷はきっと俺が思ってるより遥かに酷い。

本当の意味でまだ消えてはいないだろう。

やっと自由の身になったんだ。

それをまた奪うことなんてできない。

いくら俺が欲しがったところで彼女の人生は所詮彼女のものだから。
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