愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。
ああ、そうか。
やはり梨央の傷は癒えてはいない。
あの男から受けた傷は俺が思ってるよりずっと深く、根強いのかもしれないと。
「梨央…」
「なーんてね、だからと言って別にコウさんを責めてる訳じゃないですよ。怒ってもないです。自分でも正直何を言いたいのか分からないので今はそっとしといてもらえるとありがたいです」
ほっとけるかよ。
そう思ったが、酔いが回り、動揺している今の俺には悲しいほど気の効いた言葉が出てこなかった。
うまく頭が回らない。
だからといって梨央に根付いた歪んだ男への偏見をこのまま見過ごすわけにもいかない。
「梨央」
「えっ」
「俺はお前が思ってる男とは違う」
そう言って気付けば梨央の頭をなでていた。
そして再び抱き寄せる。
そのままあやすようにマンションに連れていき、この日、俺はいつも以上に梨央を慎重に抱いた。
言葉が出ない代わりに行動で彼女の不安を取り除いてやりたかった。
梨央には本当の意味で笑っていてほしい。
嘘の笑顔なんていらない。
下手な平常心なんて取り除いてやりたかった。
「…コウさっ……」
「もっと俺に心開けよ」
その言葉は梨央に届いただろうか?
嘘と涙で固められた鎧を壊すのはきっと簡単じゃない。
だけどそれをするのは他の誰でもない俺、
俺しかいない。
そう思った。