ずっとキミが好きでした。
文化祭前日。



私はこの三年間で初めて準備が楽しいと思った。



クラスでは白雪姫の演劇をやることになり、私はこびとCとして出演することになった。


こびとたちは愉快に歌い、白雪姫が眠りについてしまったら泣かなくてはならない。


テキトーにやるなんてことは許されない。


ただならぬ緊張感の中、私たちのクラスはリハーサルを重ねた。





クラスのリハーサルが終わるやいなや、私は体育館に向かった。


バンドのリハーサルもこなさなければならない私は大忙しだ。




全速力で廊下を突っ走っていると、どこからか耳に聞き覚えのある声が入って来た。






「翼ちゃーん!」






急停止し振り返ると、思った通り丸眼鏡の女の子が立っていた。





「なっつん!」





なっつんはあの後バンドを辞退した。


なっつんなりにプレッシャーを抱えていたらしく、それが大きな負担になっていた。


なっつんが本当にしたかったことは、何でもない、裁縫だ。


なっつんは部長としてクラブをまとめ、自身は県の和裁のコンクールで準グランプリの快挙を成し遂げた。


その才能を存分に活かし、クラスの演劇の衣装係りを担っている。


三年になってクラスが別れた私たちは、それぞれの場所で、それぞれのやるべきことを一生懸命に取り組んでいた。





「明日のリハーサル?」





「そう。今から体育館で30分。もう、忙しすぎて倒れそう…」




「翼ちゃんに倒れられたら大変だから、これあげる!」





なっつんが私の目の前に可愛らしいピンク色の紙袋を差し出した。


中身は見なくても分かった。




 
「翼ちゃんのさくらあんぱんにはかなわないけど、やっぱり玄担ぎはこれだろうなぁと思って」





「ありがと、なっつん」





「どう致しまして。…じゃあ、リハーサル頑張ってね!明日必ず見に行くからね!」






なっつんのエールを心に留め、さくらあんぱんを大事に抱えて再び走り出した。









明日がこんなに待ち遠しいのは、きっと初めてだ。


緊張するし、今夜興奮して眠れないかも知れないけれど、この特別な気持ちは一生忘れたくない。





よし、頑張るぞ!






窓から差し込む夕日は真っ赤に燃えていた。


夕日に燃え尽くされないように、私も心の温度をあげて沸騰させなくては…。







私は誰よりも熱く燃えていた。
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