ずっとキミが好きでした。
7月にもなると日は格段に長くなる。


部活を終えても、まだ空にはほんのりオレンジ色が混じっていた。


青々と茂る木々の隙間から漏れる日光が幻想的で目を奪われていると、突然後ろからど突かれた。


あまりの衝撃にバランスを失ってよろめくと、愉快な笑い声が耳をすり抜けた。






「アハハハハ!!相変わらずどんくさいな、ばさおは!!」







後ろを振り返ると、案の定、あっすーがこちらを見下して笑っていた。


おれは、拳を振り上げかけたが、途中で女子だということを思い出し、腕を下ろした。


そんなおれ…じゃなくて、私を見てあっすーは何かいいたげだったが触れずに全く違う話題を持ち出して来た。






「あのさ、幼なじみの一生のお願い、聞いてくれる?」







やけに今日は丁重だ。


一生をかけてお願いするのはまだ早いと思ったが、おれが叶えてやれる程度の願いなら聞いてやろうと、おれは許可した。


あっすーは目をキラキラさせておれを見つめた。






「今度の夏祭りでオレら演奏するんだけど、その時にオレ…告白したいんだ」














--こくーーはく…













手の甲に鋭い電流がビリリと走った。


心臓が麻痺したのか、呼吸がほんの一瞬止まった。






でも、本当に一瞬の異変で、気付いたら普通に話していた。









「相手はなっつんだろ?」






「すっげー!さっすが幼なじみ!」




   


誉められたのに嬉しくない。


こんなことで喜べるほどおれは軽くない。


あっすーはやっぱりおれを下に見ている。


不愉快になり、いつもの荒っぽい口調で言葉を連ねる。







「で、何なの?」






「何なのって、そのシチュエーションの相談に決まってんじゃん。夏祭りのステージ上でやりたいんだけど、あいつそういうの大丈夫かなって、オレなりに心配してんの。で、仲良しのお前に相談ってわけ」






あっすーはやっぱりおれに冷たい。


意地悪だ。


おれを泣かせたくせに、なっつんの心配はする。


そして自分勝手。


都合の良いようにおれを利用して必要なくなったら切り捨てる。



そんなの昔からだ。


変わらない。


変わってくれない。


その度におれは振り回される。








それなのに、










それなのに、










どうして、










どうして、










憎めないんだろう。


嫌いになれないのだろう。







おれはその答えを知っていた。


何年も前から…。









「ステージ上はやめた方が良い。なっつん、そんなので注目されたくないと思う。二人きりになるように仕組んで、花火見ながら告ったら?」






最近、女子学習のために読んだラブコメのシチュエーションをそのまま喋った。


単純なあっすーは、ラブコメの実写版をやらされるとはつゆ知らず、手をたたいて喜んだ。






「んじゃあ、ばさおも手伝えよ」







「は?」








「お前が考案したんだ。最後まで責任持ってやってくれ!じゃ、また後日、作戦会議な!!」







あっすーはそれだけ言い残し、おれには有無をいわさず、チーターばりの速さを見せつけ、去っていった。


木が風に吹かれて、シャカシャカ、さわさわと心地よい音を立てていたが、おれには嵐の前触れの予感がした。
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