ずっとキミが好きでした。
二日目。


明日音くんの部屋の前にはノートが置かれていた。


昨日置いた向きとは逆になっている。


私はノートを手に取り、中を開いた。







『相変わらずマズいな』






コメントの内容は最悪だが、とりあえず私の言ったことが聞こえていて、私の思いの数パーセントは届いたようで、ほっと胸をなで下ろした。






「明日音くん、相変わらずひねくれてるね。私、味見したけど、普通においしかったよ。自画自賛してる訳じゃない」






私がそう呟くと、ルーズリーフが一枚、ドアの隙間を通ってやって来た。


見てみるとそこには、『バ~カ、ばさお』と書かれていた。


文面からは死にたいとか変なことを考えている感じは受けなかった。



まだ精神的には病んでいない。


悪化して手の施しようがなくなる前に、この閉ざされた空間から明日音くんを救い出さなければならない。


今度は私の番だ。


私が明日音くんに手を差し出して、その手をしっかり握るんだ。

 

私はルーズリーフの端っこに『今日はかぼちゃマフィン』と書いてドアの隙間に投函した。


するとすぐに『かぼちゃキライ』と返信が来た。






「そんなのわかってるよ~。わざとかぼちゃにしたの。砂糖もバターもたっぷり入ってるから食べられるよ。じゃあ、置いておくね」






食べないかもしれないなんて心配はしなかった。


甘いものに目がない明日音くんは、マフィンが大好きだ。


せんべいより洋菓子好きのばあちゃんが、幼い頃、橘ツインが私の家に遊びに来るとマフィンやホットケーキなどを作ってくれた。


明日音くんはみっくんの分まで奪って食べ、一口サイズのマフィンだと、10個は余裕で完食していた。






懐かしい思い出が蘇ってきて、明日音くんにそれを喋ると、先ほどの『バカ』に黄色の蛍光ペンでアンダーラインが引かれていた。


二度と戻ることの出来ない過去に戻れた気がして私は少しほっとした。





ーー私、まだ明日音くんと繋がれる。





一瞬でもそう思えたから。
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