ずっとキミが好きでした。
ど田舎にビルは無いが、360度自然に囲まれている。


私たちはパン屋さんから少し歩いて、村の中央を流れる川の桟橋にやって来た。


私たちより一回り大きな中学生とすれ違い、桟橋の真ん中あたりに腰を下ろした。


大冒険のあとのお楽しみが遂にお目見えする。






「はい、さくらあんぱん。手汚れてるから、お絞りもらって来た。ちゃんと拭いてから食えよ」







「あっすー今日はやけに気が利いてるね~。サンキュ!」






私は念入りに手を拭いて、汚れを取った。


ふとお尻に目をやると、残念ながらショートパンツのしみはまだ乾いていなかった。







「よし!じゃあ…頂きます!」






「おれも頂きます!」







思い切り口に突っ込むと、丸みのあるほのかな甘みと角のある塩味が、口の中で見事に融合し、絶妙なハーモニーを奏でていた。


これを当時言えればグルメリポーター確定だったが、凡人の私には「うまい!」と率直な感想を述べることが精一杯だった。


夢中でさくらあんぱんを頬張っていると、私より先に食べ終わった明日音くんがふと歌い出した。







「たとえば君が傷ついて

 くじけそうになった時は…」









聞いたことがある曲だった。


私のお気に入りで、幼稚園のお遊戯会でも皆で手を繋いで歌った記憶がある。







「ビリーブ…だよな?」








「そ、ビリーブ。オレ、この曲好きなんだ」










ーーー好き…か。






明日音くんが好きな曲を自分も好き。


共通点ができてほんの少し、心が躍った。


私の心に淡い桃色をした感情が生まれた。



明日音くんは私の方を向いて言った。






「オレは翼の幼なじみだから、翼が傷ついたり、くじけたりしたら、必ず隣で笑うから。そして、このさくらあんぱん食べるんだ。嫌なことも辛いことも食べて忘れれば良い。…約束、な」








「うん。…約束」










互いに小指を絡め合って私たちは固い約束を交わしたのだった。


雨が止んだ空は、今も変わらない鮮やかなオレンジ色をしていた。


その空に大きな七色の橋が架かっていたのを今でもはっきりと覚えている。



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