リュックの穢れとポケットの純情
おれにはさっぱりわからなかったが、
どうやら思いつめた様子でいて、
このメッセの後に何度も懇願してきたから
おれも頷いた
しかしその後の彼女のSNSの呟きを見ていても、なにも変わった様子はない
やっぱりさっぱりわからない
出会った頃から思いつめていたのだろうか
1年以上、近くで見てきたつもりだった
結局、見た気になっていたのかもしれない
・・・身体が重い。
心もどんよりと曇り空だ
『いいひと』
おれは『いいひと』なんかではないはずだ
それにあいつこそ『いいひと』だ
将来は誰かの役に立ちたいと、介護士や、臨床心理士や、そんなものになりたいんだと目を輝かせて語ったあいつ
困っている人に躊躇いなく寄り添うあいつ
立場の弱い人間の心を理解するのが得意なあいつ
あいつは、
やさしい、
つよい、
よわい、
あまい、
きびしい、
いろんなあいつをおれに見せてくれていた
全部を理解していたわけじゃない、それは承知の上だ
おれは『いいひと』じゃない
人並みに悪いことをしている
一度、親に隠れて酒を飲み煙草も吸った、ふざけて友人の私物を隠したり、授業だって話を聞かずに平気でみんなとお喋りしている
おれにとってはあいつの方が『いいひと』なのに
それでもあいつにとってはおれが『いいひと』で
それに耐えられなくなって、あいつはいなくなったのだろう
どうしてもわからない
『いいひと』って、なんだよ・・・
訊きたくても、訊く相手の連絡先は、もう、
あいつ自身の望んだとおり、消してしまった
住所もわからない
おれの初めて、初めての恋だったのに
あいつは去り際に、
「あんたは『いいひと』だから、あんたと同じ『いいひと』としあわせになりなよ
私なんか、もったいないよ」
と言っていた
・・・・・嫌に、決まってるだろ
おれはお前と一緒にいたかったんだよ
財布の入ったずしりと重いポケット、
そして同じく重い身体を
おれは、引きずるように歩いた