「さ、小難しい話はここまでにしようか。俺は君の望む言葉を言ってあげられたかな。」

「ええ、本当にありがとう。」

この悩みについて交わした言葉は少ないが、既に彼との過ごした時間で気分は晴れやかであったのと、的確に背中を押してもらえたので、今の仕事を続ける決心が固まった。
また様々な話をしながらお酒を進めていく。いつのまにか周りの客は減り、私たち二人を残していなくなってしまった。

さっきまでグラスを片付けていた店主がカウンターから出て行った。もしかして閉店が近いのだろうかと思い隣の彼の顔を見るが、焦る様子が見られないのでまだ時間はあるようだ。

もう一度店主の方を見ると、どうやらギターを選んでいるらしい。専用のラックから一本のギターを選ぶと、優しく鳴らした。気づいた彼がずっと流していたレコードを止める。

「やるんだね」

にやりと彼が笑う、店主も笑い返すと、メロディを奏でた。このイントロは私も知っている。


往年のラブソングだ。





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