本当に心地よい。ギターの音も、彼の歌声も。

そして曲のサビにさしかかろうという時、急に彼はこちらを向いて、私の目をじっと見る。



君の幸せのためなら

なんだってする

自信はあるさ

僕は今まで得た全てを
捧げることだってできる

それを愛というんだ


まるでそこはステージで、彼はすっかりシンガーになりきっていた。

目をそらす事が出来なかった。この男はこうしていたずらに女性を落としては虜にしているのではないだろうか。胸の動悸が治まらない。

やがて曲が終わり、私は無意識のうちに拍手していた。感動で涙も出そうになったが、そこはやっぱり悔しいのでどうにか堪えた。

「うまいもんでしょ?」

まさに今で言うドヤ顔。ふふん、と鼻を鳴らしそうな勢いだ。だがそれが自信過剰と言えないほど実力はちゃんと伴っていた。

「素敵でした。猫殿の歌も。」

マスターのギターも、と言ってから、せっかくなので彼のギターも聴きたいと思い、彼に頼んでみるが、それとなく断られてしまった。

もう酒が回って指がちゃんと動かないよ、

どうせなら完璧な状態で聴かせたいのだと言う。私は残念がったが、仕方がない。彼に弾く気が無いのならと諦めることにした。








< 20 / 34 >

この作品をシェア

pagetop