「とにかく、もう一眠りしよう。流石に俺も眠いんだ」

素肌のまま密着し、温もりの中微睡んだ。

ぽつりぽつりと彼は話す。

「夕方からの仕事、入れるんじゃなかったな。」

「そんな…引き止めるべきではなかったですね。無理はなさらないで」

「いいや、俺も居たかった。でもずるいだろ?君に選ばせたんだよ」

今から寝てしまっては、酒の入ったこの身体で、彼の出る時間には起きることは叶わないかもしれない。なら今この時だけは、彼と共に居たい。眠気は幾度となく襲うが、なんとかそれを跳ね除ける。

「まるでナンパだよね。でも俺だって誰だってよかったわけじゃないんだ。店の扉開けた瞬間、君の背中が見えた時、反射的に声をかけてしまった。」

「まごうことなくナンパですね」

顔は見えないが、彼のバツの悪そうな表情が見えるような気がした。背中で感じた気配に堪えられず笑う。

「それでも、会えてよかった」

あんなに悩んでいたこと、今ではすっかり忘れてしまうほどなのは、思えば私は誰かに背中を押してもらいたかったのだと思う。今の仕事を続けたいと心のどこかで思っていて、それを彼は感じ取ってくれたから。

だから今はこんなにも透き通るように晴れやかなのだ。

「そう思ってくれるなら、よかった。さあもう寝よう。」

彼の声に、私は抗えないようで、どうにか保っていた意識がベッドより下、奥深くに吸い込まれるように眠りに落ちた。

寂しさはある。けれど、今眠りにつくまで側にいてくれる。
それだけでいいのかもしれない。







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