またこれだ。と、変に研ぎ澄まされたような意識が夢の中で覚醒する。
眠る時に、人の脳というのは、その日得た記憶を整理し、保存するらしい。

あぁ、だから聴こえるのね?

彼の歌声はもはや一生忘れられない思い出として、しっかり私の頭にも、そして心にも留められたと思う。

あんな場所であんな歌を私の目を見て歌うなんて。ずるいひと。

充分すぎるほど私を虜にしてしまったのだから。

夢の中でも泣けるらしい。涙が止まらないのは、彼との別れを惜しんでいるのか、この一晩の出逢いを喜んでいるのか。最早わからない。

涙の通った頬が冷たい。ふと、それを指が掬うのを感じた。考えるまでもなく、彼だろうと思った。


その時、ドアの閉まる音が聞こえた気がした


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