夜の空気
そんなユウタが変わったのは、小学3年生になった頃。
『結婚しよう!』
と、言った。
今までお姉ちゃんお姉ちゃんと慕っていたユウタが、口をぐっと引き締めて、わたしをにらみ付ける様に言った。
前の日に見たドラマで見たプロポーズを真似たのだ。
そう言うとわたしが涙を流して喜んでくれると思っていたようだ。
しかし、ユウタの期待に応えられず、わたしは開いた口を塞ぐことは出来なかった。
『駄目だよ。わたしたちは子供だから、結婚なんて出来ないんだよ?』
『え、じゃあ、いつ結婚できるの?』
『うーん……大人になったらかな?』
『じゃあ、大人になったら結婚しよう!』
よっぽどわたしを泣いて喜ばせたかったみたいだった。
『はいはい、大人になったらね』
ユウタの真剣な顔を困らせたくなくて、そして、すごく嬉しかったことを隠したくて、ぶっきらぼうに返事をしてしまった。
その日の自分の日記にかわいらしいことを書いた記憶がある。
人生で初めてのプロポーズをもらった。
ゆーたはかわいいし、結婚してあげてもいいかも。
結婚式はどこでしよう? チャペルのある教会がいいなぁ☆
なんてね。
でも、ユウタも小学校で友達も増えて、わたしも中学校に入学して、少しずつ疎遠になっていった。
ユウタの家に、今までみたいに行こうと思ったことが何度かあった。けど、一緒に遊ぶなんて無邪気な年齢は既に超えてしまっていて、中学生のわたしは小学生のユウタとでは、あまりに不釣合いだった。
中学校、高校とわたしの母校に入学をするというユウタを知るたびに、ユウタがあと1年早く生まれてくれていれば中学校も高校も一緒に通えたのに。と、ユウタの両親を勝手に恨んだりもした。