夜の空気
高校に入学したときのユウタを写真越しに見たことがある。


入学式の帰りにユウタとばったり出会ったわたしの母は、その場で携帯電話のカメラで撮って、わたしにメールで送ってくれたのだ。


びしっと制服を着て、笑顔でピースをするユウタ。


短く切りそろえた黒髪と日に焼けて引き締まった顔が印象的だった。


何でも足の速さを活かして中学校では陸上部に入部。高校でも陸上を続けるらしく、毎日10キロ走っているとのことだった。


子供の頃のままの笑顔のユウタにわたしの心はときめいた。


でも、ユウタのことを考えるのは、もうやめようと思っていた。


実家から遠く離れた大学を受験したのも、かなり無理をして偏差値を上げて今の大学を選んだのも、そのためだった。


ユウタにとって、わたしはお姉さんでしかないと言い聞かせるためには、受験勉強で忙しいことがむしろ嬉しかった。年齢差のこととか、バレンタインデーに渡せずに捨ててしまった手作りチョコレートのこととか、そんなことを考えずにいられたから。


これで努力家のユウタも同じ大学に入ってくることはない。少しずつ感情を殺していきながら、素敵な人と巡り合おう。そう思っていた。



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