ただ、逢いたくて―P.S.愛してる―


それはハッとした瞬間だった。

「何、いきなり」

「不安にさせてゴメン」

彼は何の前触れもなく、あたしを抱きしめた。

「平気だって!不安なんてさ、これっぽっちもないから!」

「嘘だ。菜っちゃん嘘つくの下手だから分かるもん」

彼はその後、あたしから離れて背中を向けた。
でも、お互いに分かってた。
だから言ったんだもん。

「ありがと」

斜めから見える彼の顔はほんのり赤くなって見えた。

「キス…しよっか」

「は?」

「嘘~ん♪期待した?」

あたしは目を開けたまま固まっていた。

「馬鹿!」

ホントに呆れる。
少しでも彼に期待してしまった自分に。

「けど、これだけはホントだから」

そう言って彼は屈託なく笑ったけれど...
貴方はあたしに言っているはずの言葉を空に向かって呟いたよね、
まるで空にいる誰かに言っているかのように―――…
少なくてもあたしには、そう見えた。
貴方を疑う訳じゃないけど..あたしではない、他の誰かに言っているように思えたの。

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