五感のキオク~忘れられないその香り~
「初めてですね、こうして一緒に飲みに行くのは」
「そうですね、いつも忙しそうにしていらっしゃるし、私なんかが誘っていいものかと」
本音だった。
きっと彼とはもう会う事もない。
だから今日はラストチャンス。
彼の事は興味がある。
もっと知りたいと思う。
だけどそれは恋愛感情というより、もっと本能の
“その香りを思う存分感じたい”という欲望からだった。
それというのも―――
彼の香りの元が気になって男性化粧品売り場に行き、記憶を頼りにその香水を探し当てた。
そしてそれを買い、さっそく試した。
でも、微妙に違う。
嫌がる弟にその香水を使わせてみる。
今度は時間が経ってから香りが変わる事も計算に入れ確認してみた。
……やはり違う。
あの香りは彼を含めての匂いだったとわかった。
「……さん?」
「え?」
いつの間にか自分の思考の森の奥深くに迷い込んでいた私を救いだす彼の声。