五感のキオク~忘れられないその香り~


「最後、なんですか?」


今飲んだグラスを左手に持ったまま見つめていると、不意に隣から聞こえてきた言葉。

それに驚いて彼を見る。


少し怒りの含んだような眼差し。

その視線に戸惑う。




最後じゃなくてもいいの?



明日からは仕事でもかかわりはない。

偶然会うなんて事はこの都会ではなかなかない事。



だから、もう……



グラスを持ったままの手に重ねられる彼の手。



―――瞬間、ふわりと香るあの香り。



その香りが私を狂わせる。
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