五感のキオク~記憶の中のアナタの声~
『それではそろそろ曲を聞いていただきましょうか』
ラジオからは相変わらずパーソナリティの声が聞こえてきている。
イントロがかかり彼の歌が始まる。
ほんの少しだけハスキーな声。
切なく歌い上げる恋の歌。
少しだけ女々しい心を隠すようにふるまう男の心情を語る歌詞。
「うん、やっぱりいい歌かも」
そう思ったとたんうっかり声に出てたらしい。
「彼の声いいよねー」
近くにいた同僚が私のつぶやきを拾い答えた。
やっぱり聞こえてたか。
仕事中にかかっているのはFMラジオ。
たまに勝手に耳が言葉を拾い、記憶の遠くに連れて行く。
今もそう。
「でも、話すとかなり印象が……」
軽そう。
とは言えずにとどまった。
だって本人を全く知らないのに、そう言い切ってしまうのは失礼な気がしたから。