五感のキオク~記憶の中のアナタの声~
「まぁねー、でも別にアルバム聞いてる分には平気よ」
たしかに。
でもアルバムを聞くほどの興味はない。
それに
「へー、この人好きだったんだ?」
「声がね、なんかセクシーじゃない?」
おいおい、仕事中。
そう彼女に目配せをして、「ふーん、そう?」と返した。
声の好みなんて人それぞれだ。
私がセクシーだと思うのは、
……やっぱり彼の声だ。
しかも、アノ時の。
あーあ、仕事中だというのに何を思い出してるのか。
これだから記憶ってやつは厄介で。
たった一人のアーティストの声でここまで記憶を掘り下げてしまった。
「はいはい、仕事仕事」
「おっとそうだった。気分転換に飲み物取りに来たんだった」
そう言って同僚は給湯室に向かって行った。