五感のキオク~好みの彼に出会ったら~
うっかり時間が止まっていると勘違いした。

そのぐらい衝撃的だった。


実際は、たぶん数秒。

私の動きが止まっていただけ。


きっとその彼は微笑みを浮かべたまま私を見ていたっていうだけ。


「はは、なに見とれてんの?」


たまたま仲の良い同僚だったから、そんな言葉が出たのかもしれない。

だけど、仕事中に見惚れてるって言ういい方はないんじゃないんだろうか。


「失礼しました。素敵な笑顔だったので、つい」


これぐらいの機転はきく。

うぶな小娘な年齢はとうにすぎている。


この同僚に今度飲んだ時にただじゃおかないと心の中で誓う。



「いただきます」


そう言ってその彼は今出したばかりのお茶に口をつけた。

綺麗な所作で飲むのその仕草に私はまた目を奪われた。

けれど後ろ髪を引かれる想いでその場を立ち去った。


お茶出しが仕事、だからそれが終わったらからもう用はない。

そんなものなくてもずっと、見ていたいと思った私はすでにおかしいんだろうか。
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