五感のキオク~好みの彼に出会ったら~
給湯室に戻りトレイを置く。


ハァー


何あれ。

彼が「ありがとう」と言って微笑んだ瞬間、時間止まったよ?

止まったって言うかスローモーション?

微笑みさえ、ゆっくりとしているように見えた。



コップに水を汲み、一気に飲んで息を整える。


彼の微笑みを見た瞬間、うまく呼吸ができなくなった。



深呼吸、深呼吸。



っていうか、息継ぎの仕方からおさらいってレベル。


視覚から入ってくる情報を頭が処理しきれない事なんて、今まで一度もなかった。




自分の好みが、

たった今、

目の前に現れたんだから―――




そんな存在今まで会ったことがない。

好みの芸能人で表すのも何か違う気がしてた。


けれど、今見た彼は、

自分が言葉にするよりももっと明確な答えとも言うべき存在だった。



これを彼女の言葉で言わせてもらえば“運命の出会い”。

いや、私サイドの意味での出会いでしかないのだけれど。


それでも衝撃的な出会いであるには違いなかった。
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