五感のキオク~好みの彼に出会ったら~
それから、数日経ったある日。

仲の良い営業に飲みに誘われた。

彼は同期ではないけれど、飲み会で意気投合して以来の付き合いだ。

正しくはうっかり一度そういう関係になってしまったけれど。

彼女のいる彼とはその時一度きりで、それからは本当の意味で健全な飲み友達になった。


「おまえさ、あの人好みなの?」

「は?なにそれ」



あの人。

そう言われた瞬間ポンと彼の顔が頭の中に浮かぶ。

彼との共通の知り合いなんてたかが知れてる。

けれど素直にそこで「あぁあの時の彼よね?」なんて乙女のような事は言えない。

なんだろう、これってくだらないプライドみたいな何か。



「この前お茶持ってきてもらったじゃん、あんときの担当。結構好みなんじゃないの?」

「…あぁ、あの人ね」



私はやっと思い出したように言ったけど、きっと彼にはバレバレだよね?

だって私は自分好みの人がこの世に存在している事さえいまだに信じられない。

だからそれを自分の口から言うのもはばかれる。
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