君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
何でだろう……音楽を聞いてこんなに胸が苦しくなるなんて。まるで、ひとりで雨の中を佇んでいるような孤独を感じた。


「どうして泣くんだ?」


「あれ……?ほんとだ……泣いてる。」


自分でも理由の分からない涙は、悲しくもないのに止まらなかった。


「これは一番最近作った曲なんだ。柚葉が隣に居ない夜の曲」


私がいないだけで、澪音はこんな気持ちになるのと想像したら、心を真綿でくるまれるような感じがした。


澪音は演奏を続けながら「どうだ、ねちねちと恨みがましい曲だろ」と冗談めかしている。


他の曲の楽譜はまだ残されているし、もっと演奏を聞いていたいけれど、今はそれよりも澪音に触れたくてしょうがない。


シーツを体に巻き付けて澪音の側に行くと、澪音は私を抱え上げて足の間に座らせてくれた。背中に澪音の体温を感じて、やっと少しだけ切なさから開放される。


「悪いけど、柚葉が踊る曲は作れなかったよ。

前に弾いたワルツ一曲以外は、舞踊の曲は無いんだ」



確かに今弾いてくれた曲も、踊るイメージとはかけ離れている。



「どうしてですか?」


「んー、そうだな……」


考えるように言葉を途切れさせた澪音が、ふいに首筋に舌を這わせるので、それだけで思考が途切れてしまった。


「澪音……」


艶やかなグランドピアノに映る澪音は熱に浮かされたような目をしていて。

鏡越しに見るように澪音と目を合わせた私は、もう澪音から与えられる熱以外は、何も考えられなくなっていた。
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