君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「柚葉、もう逃げるぞ」


澪音はこれ以上かぐやさんの追求に耐えられないようで、澪音に手を引かれてその場を離れる。


「あのっ……お幸せに……!」


最後に目が合ったとき、弥太郎さんは幸せそうに微笑んでいた。あの二人はあれで恋愛関係が成立しているのだから不思議だ。


「ぱっと見た感じはわかりづらいですけど、弥太郎さんとかぐやさんは仲良しなんですよね?」


「感情に従うことをセンチメンタルだの馬鹿だの言う二人だけど、ああ見えてお互いを思う気持ちは強いんだ。

二人の間柄は恋人兼、戦友のようなものだから」


戦友……というのは、お互いの家の事業を支える立場としての信頼関係ということだろう。


……私は澪音の恋人になれても、戦友にはなれない。


弥太郎さんが前に言っていた。能力も、血筋も、人脈も私では何一つ澪音の助けにはならないのだと。

付け焼き刃のような知識を学んだところで、澪音の仕事を支えることはできない。

それどころか、本来選ばれるべき良家のお嬢様を差し置いて私が恋人の座に収まっているのは、澪音にとって足枷になっているはずで……


と暗い思想に沈みかけていると、澪音が私の手をそっと離した。華やかな余所行きの表情で、さっきまでとは違う仕事モードに切り替わっている。


「本日はおめでとうございます。青山さん」


「ああ、君か。澪音君……と、そちらのお嬢さんは初めましてかな?」


「初めまして。有坂柚葉と申します。

お目にかかれて光栄です」


まさか私にまで声がかるとは思っていなかったので、それだけ言うのがやっとだ。

マナー講習を思い出して、冷や汗をかきながら目の前の威厳溢れるオジサマに何とか挨拶をする。
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