君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「青山拓人(あおやま たくと)です。よろしく」


その人は不思議そうにちらっと私を見たけれど、すぐに澪音と二人での会話をはじめる。


「一時はエヴァーグリーン・オークとの契約を全部キャンセルして、持ち株も処分してやろうかと思ってたんだよ


「あははっ、大掛かりなインサイダーですね。その時は遠慮なく訴えますよ」


何やら不穏な話題について、二人で笑いながら話している。


「ともあれ、今日の日を迎えられたのは君のお陰だ。感謝しているよ、澪音君。

今度またゆっくりと飲もうじゃないか。丁度ラトゥールの当たり年が手に入ったところでね」


「それは是非。旨い酒なら、今度こそ飲ませて下さいね。頭から浴びるのではなくて」


そのオジサマは「それを言うなって」と笑い、にこやかに去っていった。


「今の方はもしかして……?」


「そう、青山財閥の会長。かぐやのお父さんだ」


「あの人が……!」


泣く子も黙る青山財閥の会長さん。ワインを被って紫に染まっていた澪音を思い出した。


「ワイン掛けられた後で、よく親しげに話せてますね……?」


「あの父にしてあの娘有りというか、一筋縄ではいかない人なんだけど。

でも散々言い合いながら一晩中酒を飲んだから、もう打ち解けてる。

それより、柚葉こそ堂々として凄いじゃないか」


「いえ、私は講義で習った挨拶をするのが精一杯で」


澪音に誉めてもらえるのは嬉しいけど、挨拶したくらいで誉められるような自分が情けなくもある。


でも澪音は「ありがとう」と私の髪を撫で、


「パーティーなんて早く抜け出そう」


と耳のそばで囁いた。その仕草にドキッとして、澪音のお礼の意味を聞くのを忘れてしまった。




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