君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
その後澪音は、会場の片隅にあるピアノを弾いた。二つのメロディーが掛け合う、ゆったりとした優しい曲だった。きっと、さっき話してくれた『ばらの騎士』の曲だ。


遠くに見える弥太郎さんは、かぐやさんの手の甲にキスをして銀の薔薇を捧げている。

普段は意地悪で仏頂面なのに、その動作は何故かとても様になっていて、見ているこちらが悔しくなるほどだ。かぐやさんもうっとりと微笑んでいた。


「あれほど見た目と中身にギャップのある人たちも珍しいかも……」


「そんなこと言ってると、またかぐやに聞きつけられるぞ。

ほら、こっちだ。もう帰ろう」


澪音に連れられて会場を抜け出し、ホテルに停車しているリムジンに乗る。


「今日は緊張しましたけど、澪音の意外な一面を見れて良かったです。

あの青山会長にさえ澪音は堂々としているのに、かぐやさんにだけはまるっきり弱くなっちゃうんですね」


「あの人とマトモにやりあえるのなんて、兄さんくらいのものだよ。

かぐやは常人には理解できない、天然の女王様だな」


澪音はセットされた髪型を崩して、ネクタイを緩める。仕事から解放されたような素振りだった。


「ても、少しくらいは淋しく思ったりしないんですか?

長く長く……本当に長い間好きだったんでしょう?」



「想いの深さと、時間の長さは関係無い」


澪音は断言するように言って私の手を握った。


「長い間好きなら、それだけ思いの丈が深くなるのか?

もしそうなら俺は、俺より先に柚葉に出会った男に勝てないだろ」

かぐやさんについて聞いたつもりが、私と澪音の話に置き換わっているのでたじろいでしまう。


「俺は、柚葉への気持ちで誰にも負けるつもりは無い」
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