君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
当主と、当主に連なるものだけが使うという独特なデザインのアクセサリー。今日の澪音のネクタイにも、控えめに樫の葉のピンが光っている。


「今まではっきりと言ってこなかったが、柚葉と俺との契約はもう終わりだ。

仕事ではなくなっても、そばにいてくれるか?」


「私なんかで、本当に良いんですか……?私は澪音の助けにはなれないのに」


私はその眩い輝きに見合うだけの存在でいられるのか自信がない。かといって、もう澪音のそばを離れることなんてできなくなっている。


「柚葉には、これ以上無いくらいに支えられてる。

自信がないのは俺の方だ。だから、そうやって答えられると拒絶か遠慮かさっぱりわからないんだ。

柚葉の気持ちを教えてくれないか?」


澪音の瞳が不安げに揺れるのがわかった。信じられないことだけれど、その態度には確かに澪音の言うとおり『臆病で弱虫』の片鱗が見え隠れしていた。

それに気がつくと、心が柔らかく圧迫されるような気がして声が詰まる。


「……はい、澪音。

私で良いなら、そばにいます。」


瞑目するように瞼を閉じた澪音は「ありがとう」と、そのネックレスを首に着けてくれた。またひとつ、澪音に愛される幸せが深くなっていく。でもそれは後戻りできなくなる怖さと引き替えだ。


「良く似合う。とても綺麗だよ」




部屋に戻るなり澪音は熱いキスを重ねながら、もどかしそうに私のドレスを剥ぎ取った。ベッドに組み敷かれると、私の弱い場所ばかりが執拗に責められる。


「どうすれば柚葉が感じやすいかはこの前で少し知ったつもり。でも本当はまだこれから、もっと」


「……ぁっ、これ以上なんてっ……ダメですっ

もう、んっ……限界で……」


澪音の指先に翻弄されて、体から溢れる熱に堪えられなくなりぎゅっとシーツを掴む。絶え間なく注がれる甘い痺れに爪先は言うことを聞かずに反り返り、それでも間に合わずに腰ががくがくと震えた。


「っ……好きだ。柚葉はずっと……俺だけのものだ」


「澪音っ…すき……

ん、ふぁっ……ぁ!」


澪音に抱かれている間、私の体はまるっきり知らない感覚に支配される。

男の人の経験は澪音が初めてではないけれど、澪音には自分の体に眠っている渇きを揺さぶられて、どれほど感じるのかを教えられているような気分になる。


「もう……、ん、溺れてしまいます……」


その先は意識も絶え絶えになり、陶酔した意識の底で澪音に深く貫かれた。

最後まで身に付けていたネックレスが、音もなく跳ねていた。
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