君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「さっき言った通り、今ここでは俺の女だよ、柚葉。

……柚葉って良い名前だな」


この人を絶対に好きになるもんかと誓ったのに。私は依頼された仕事をしているだけなのに。


名前を呼ばれると胸が苦しい。


「柚葉も、俺の名前も呼んで」


「澪音……」


呟くように名前を呼ぶと小さく笑う気配があって、


「柚葉」


踊りながら何度も名前を囁かれた。


ワルツは男性のリードに合わせて女性はステップを踏むので、私は澪音の導くままに体を動かす。


澪音の強引な態度とは裏腹にダンスのリードはあくまでも優しく、踊りやすい。


だからいつまででもこうしていたい気分になるけれど、あっという間に曲は終わり、澪音は別の女性に誘われていった。


ダンスパーティーでは、女性に誘われたら基本的には男性は断らないのがエチケットなのだ。パーティーの主催者側なら、尚更だろう。


さっきは頬が触れあう距離にいたのに、澪音もうずっと遠くにいる。そして、あの品の良い美しい笑顔を浮かべている。


私は他の男性とは踊る気にはなれず、壁際でシャンパンを飲んで待っていた。


……深入りしたら、ダメだな。彼を好きにならないように、もう一度自分に渇をいれた。


その時「失礼」と声がして、その方向を向くと足元に引っ掛かりを感じて体が傾いた。


足を掛けられてるんだ。


差し込まれた足を見て、とっさに避けてバランスをとった。こっちはダンスと立ち仕事で足を鍛えてるんだ。これくらいで転んでなんかいられない。


何とか踏みと留まって安心したのもつかの間、持っていたシャンパンが、目の前の女性にかかってしまった。

さっき私の背の高さに文句を言っていた女性だ。
< 12 / 220 >

この作品をシェア

pagetop