君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「これを持っていって。澪音には懐かしい味だと思うから、二人で食べるといい」


オーナーはずっしりとしたパウンドケーキのようなお菓子を手渡してくれた。


「ありがとうございます。これ、何ですか?お店のメニューには無いですよね」


「これはシュトーレンと言って、ウィーンではよく食べられてる焼き菓子なんだ。クリスマスが近付くと毎日少しずつ食べるらしい。クリスマスに食べ終わると幸運が訪れるなんて言う人もいるくらいだから、明日食べきっちゃうといいよ」


「そうなんですか……。素敵なお菓子ですね、嬉しいです」


澪音と一緒にウィーンのケーキを食べるなんて、幸せ過ぎるクリスマスだ。オーナーの優しいプレゼントがとても嬉しい。


オーナーは澪音が留学していたことも知っているし、そういえばさっきは澪音を親しげに「あいつ」と呼んでいた。

二人がどういう知り合いなのか気になって聞いてみたけれど、それはうまくはぐらかされてしまった。


「オーナーって実はセレブだったり……?」

「俺は全然違うって。有坂さんこそ、将来澪音と結婚したらまさにセレブじゃないか」



そう言われて初めて気がついた。


もし私が澪音と結婚したら、私もあの家の人と同じ生活をするんだ。



豪華すぎて、いまだに迷うお屋敷。

社交界のようなパーティーが開かれて、

執事さんも、メイドさんもいて、

お父さんのことを「お父様」と呼んで、敬語で話すようなお家。


偽りの恋人として同居して、今もそのまま澪音の部屋に居候しているけど、私は今の生活をどこか仮のものだと思っていた。


もし結婚したら、もちろんバイトなんてできないはず。ダンスは……続けられるのかな。


そもそも私に、澪音のお嫁さんなんて務まるのかな……?
< 122 / 220 >

この作品をシェア

pagetop