君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「柚葉……?」


澪音が厨房まで私を探しに来てくれたようで、遠くから声が聞こえた。澪音の姿を確認すると、オーナーが「彼はかなりの心配性だな」と笑った。


二人がひとしきり挨拶をかわした後で、オーナーは大真面目に澪音に言った。


「澪音、わかってると思うけど有坂さんはうちの大事な看板娘で、とっても良い娘なんだ。

だから何があっても、泣かせないようにね」


「わかってる。大事にする。

……拓真さん、まるで柚葉の親父さんみたいだな。柚葉がここを辞めたがらない理由がよくわかるよ」


澪音はそう言って微笑む。オーナーのことを『拓真さん』と名前で呼んでいることからして、やっぱり二人は親しげな様子だった。


そして、私を『大事にする』と言ってくれたのを聞いて、嬉しくて、少しだけくすぐったいような気持ちになる。直接言われるのとはまた違った甘い感情が広がった。


「それなら良いんだけど。……ただ、さっき俺が偶然見た時、二人は口論でもしてるようだったけど?」


一瞬答に詰まった澪音の額を指先で軽く叩いて、オーナーは「こんな日に喧嘩するなんて馬鹿だ」と言った。


「早く帰って仲直りしなさい。

それから澪音。ピアノ、次回はトチらないようにね。

彼女は確かにちょっと抜けてるとこがあるけど、ただ親切で熱心なだけなんだ」


私には最後の言葉は分からなかったけど、澪音にはしっかり伝わったようで「それもわかってるつもり」と返していた。
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